いよいよステップアップの練習へ
鳥さんによっては、複数人で暮らす家族に対してどうしてもランキングをつけてしまうコもいます。これは決してボスを決めているという訳ではなく、「この人は咬んでもいい」(咬んではいけません)、「この人は咬んじゃダメ」、「この人はカキカキOK」、「この人はケージに戻らなくてもいい」という風な感じで、人によって行動を変えていると表現する方がしっくりくるかもしれません。このほかに、咬むからと言って嫌われている訳ではなかったりもするので、飼い主さんとしては混乱されるかもしれません。
「人によって鳥さんの態度が豹変」というタイトルでvol.1からvol.8まで、オンリーワン状態にさせないために、No.1の地位にいる人に気を付けていただきたい行動や、No.2以下の人たちの継続的な関わり(vol.3、vol.4)についてご紹介してまいりました。長生きをする生き物なので、どの家族に対しても最低限接することができて楽しく過ごせたりすることや、家族以外の人に対しても接する機会を作ることで、万が一の時に飼い主さんも鳥さんも安心できるのではないかなと思っています。
咬むタイプの鳥さんは同時に咬みつき改善も
vol.6とvol.7に登場していただいたオザ兵長さん(オカメインコ)は、「インコ&オウムの困ったお悩み解決帖」(大泉書店)の撮影の時にお会いするのが初めてでした。どんなタイプのオカメインコさんかと言いますと、「女性よりも男性が好きで、かなり手ごわいと思う…」というのが飼い主さんから教えていただいた事前の情報です。
応用行動分析学に基づくトレーニングは「誰にでもできる方法」と言われていて、この方法を多くの方に知っていただくには、どんな人にも馴れている鳥さんを相手にするよりも、初見の人は警戒する、むしろご褒美を受け取ってくれないくらいの鳥さんの方が、本を読んでくださる方に対して説得力があるのではないかと思い、オザ兵長さんにトレーニングの相手になっていただいたという経緯があります。
さて、そんなオザ兵長さんですが、ケージ越しでご褒美を手から受け取ってくれるようになり、ケージの外でも手から直接ご褒美を受け取ってくれるようになるところまできました。
ここからは、ステップアップまでの様子をご紹介していきたいと思います。
ところで、オザ兵長さんは咬まないので、咬むタイプの鳥さんに対してはこの方法に加えて咬みつき改善も同時に行っていく必要があります。咬むタイプの鳥さんのトレーニングについては「ウロコインコ/咬みつき改善・手にステップアップ・コミュニケーション」をご参考にしていただけたらと思います。またこれからも、違うタイプの鳥さんについてご紹介していきたいと思っていますので、全く同じタイプや状況ということはないかもしれませんが、いろいろな事例をご自宅のケースに応用していただけたらいいなと思っています。
また、鳥さんによっては…
〇肌が見えるとステップアップしないけど、肌を隠せばステップアップしてくれる。
〇ステップアップする手(腕)を鳥さんの前に差し出すよりも、後ろから差し出した方がステップアップしやすい。
〇サイド(横移動)にステップする方が手にのってくれやすい。
〇特定の場所(例えばケージの上からなど)からはステップアップしないけど、他の場所からはステップアップしてくれる。
〇No.1の人の手や肩、頭にのっている状態からはステップアップしないけど、一旦テーブルなどにおろしてからであればステップアップしてくれる。(1番大好きな人から他の人にステップアップする動機づけが薄いというのが理由として考えられます。)
〇手にステップアップする前に、一旦、止まり木やタオル・ハンカチで手を隠すなど、何かを介すことで手にステップアップしやすい。
〇ステップアップする方の手の向き(手の甲を上/手のひらを上)や、位置(指/手首/腕)を変えてみて、比較的鳥さんがステップアップしやすいところを探る。
などなど、少し工夫することで意外とあっさり成功することもありますので、いろいろ試していただけたらと思います。
ステップアップトレーニングの様子
1.下記の画像では、右手にご褒美を持ち、左手をステップアップしてもらう方の手とします。もちろん逆でも大丈夫です!鳥さんが逃げない位置まで近づけて左手をキープします。
鳥さんの中には、ご褒美を持つ以外の手つまり左手の存在にとても警戒してしまう鳥さんもいます。この場合は、一気に画像↓のような位置に左手を添えるのではなく、左手を膝の上に置く(座っていたら)、腰の位置に置くなど少しずつ上にあげていくところからのスタートとなります。
鳥さんの様子を観察していただきながら、まずは左手はどの位置なら逃げずにご褒美を受け取ってくれるかを探っていきます。
2.1より少し鳥さんの方に左手を近づけています。
3.さらに左手を鳥さんに近づけていきます。ここまで左手を置いてもオザ兵長さんは全然平気なご様子。最初の頃は、ケージの上にご褒美を置くだけでも怒られていたのに。ずいぶんと受け入れてくれるようになりましたね。
4.上記1~3の方法でなかなか進展がない場合は、こちら↓のようにエサ入れを使ったり…
5.ご褒美を変えてみたりと、変化をつけてみるのもアリです。場合によっては、ご褒美の持ち方や置く位置を調整することによって、この状態↓で足をのせてきてくれるかもしれません。
手に対していい経験がない鳥さんの場合、手のひらを見せると怖がってしまう可能性もありますので、手の甲にご褒美を置く感じでももちろんOKです。
上記の画像では、オザ兵長さんの足の位置は手のすぐそばまで来ているのが分かります。
さらに、ステップアップまでの順を追ってお伝えすると、
①片足の爪が手に触れる or のる。
②片足の指が手に触れる or のる。
③片足が手にのる。
④手にのせた片足に重心がかかる。
⑤もう一方の足の爪が手に触れる or のる。
⑥もう一方の足の指が手に触れる or のる。
⑦もう一方の足が手にのる(両足のった状態)。
⑧完全に両足が手にのった状態。
というようなステップを踏んでいきます。
上記いずれもできたらすぐにご褒美です。
⑧の状態までは、もちろんステップアップしてもらいたい手は動かしません。
躊躇なく両足が手にのるようになったら、次は少しだけ手を動かしていきます。のっている手を動かしても怖がらないように、少しずつ少しずつ手の動きを大きくしていきます。
そして、オザ兵長さんはと言いますと、上記のステップを踏むことなくあっさり腕にのってくれたので、①~⑧の細かいステップをお見せすることができずに申し訳ありません。
こんな風に、トレーニングは小さなステップを踏んで進めていきますが、なかなか進展がないな~という日もある一方で、一足飛びにいろいろなことができるようになったりする日もあります。
大切なのは、鳥さんの行動をよく観察していただきながら、鳥さんのペースに合わせて進めていただけたらいいなと思っています。
そして、トレーニング全般に言えることですが、トレーニングの記録をつけていただくことで、次のステップの内容や、一旦一つ前に戻ろうかなの時の目安になるかと思います。
数回に分けてご紹介してきましたが、オザ兵長さんと初めましてからここまで1時間はかかっていなかったんじゃないかなと記憶しています。
これはもともとオザ兵長さん自身、初めての人に対して警戒はするものの人を怖がるタイプではないと言えますね。
過去に咬みつき改善トレーニングをおこなった事例(飼い主さんを介せず私自身で行った場合)では、トレーニング頻度が週1回程度の場合、1~4か月かけて改善に至ることがほとんどでした。最初の1か月は、関係性を築くことに時間がかかることがほとんどでした。
本でもご紹介していますが、一連の撮影を終えて、オザ兵長さんの飼い主さんの感想は…
「飼い主以外の人とあまり接する機会がなかったので、初対面の柴田さん(=わたし)に従うはずがないだろうと思っていました。ところが少しずつ距離が縮まっていくのに大変驚きました!やればできるじゃないかと。」
オンリーワンにさせないためにも、飼い主さん以外の人と接する機会は必要だなとつくづく感じています。一人暮らしの飼い主さんの場合も同様です。「うちのコは怖がりだから絶対ムリ!」という鳥さんの場合でも、少しずつのアプローチで変わっていけますし、そんな鳥さんにたくさん出会ってきました。鳥さんの限界を決めるのではなく、可能性を信じてあげて、そのために適切な手順を踏んでいくことで、鳥さんの可能性は無限大だと考えています。
「人によって鳥さんの態度が豹変vol.1~8」でご紹介してまいりましたが、どうしてもお伝えしきれていないこともたくさんあるかと思っています。鳥さんにも個性がありますし、飼い主さんの方も無意識に動いてしまっていることもあるので、それでもうまくいかない!場合は、どうかあきらめていただきたくないなと思っています。どうしてもうまくいかない方は、鳥さん個別相談をご利用いただけたらと思います。
オザ兵長さんと飼い主さん、ご協力いただきありがとうございました!