以前は社交的だったけど人見知りになったり、怖がり屋の鳥さんや肝っ玉がすわった鳥さんなどなど、鳥さんの性格は十鳥十色ですよね。
今回は、特に怖がり屋さんに焦点を当てて、「ストレス耐性」アップを目指していく方法をご紹介していきたいと思います。
前回のおさらいです・・・
●その1●
「ストレス耐性」とは、”ストレスに対して適応し、処理できるか・どの程度耐えられるかといったレベル”を意味します。
同じ事象に対して、鳥さんAは平気でも、鳥さんBにとっては怖い!という風に、鳥さんによって受け止め方が違うのがストレス耐性の特徴です。
●その2●
これから一生ストレスとは無縁の環境で生きていくのは不可能。だとしたら、ストレスを避けるのではなく多少のストレスに動じないような経験を重ねていくことで、ストレス耐性をアップし、少しの環境の変化に動じなくなった方が鳥さんも飼い主さんも安心なのではないかなと考えています。
詳しくは、前回の記事をご確認いただけたらと思います。
臆病な鳥さんと暮らしている飼い主さんは、とにかく怖がらせないように怖がらせないようにと気を使いながらお世話をしていらっしゃるのではないかなと思います。もちろん、これは大事なことだと思います。
一方で、ほんの少しの取り組みで、怖がりな鳥さんを少しずつ改善していくことも可能なのではないかと思っています。場合によっては、飼い主さん側で「このコは臆病だから!」と鳥さんにレッテルを貼ってしまい、鳥さんの可能性を狭めてしまっていたという事例も少なくありません。
先入観やレッテルをとっぱらう
こちらのオカメインコさんをご覧ください。
私がこれまで出会った中で1番の臆病なオカメインコさんだと思っています。背景もあいまって表情が…。ご自宅での様子はと言いますと、何もないのにオカメパニックを何度も起こすとのことで、何とかならないでしょうかとご相談をご利用くださいました。
対面のご相談をご利用でしたが、初めてのご相談の時はケージから出てきてくれず、飼い主さんとお話しているところをオカメインコさんに見てもらうことで少しは信用してもらえたらいいな~という感じで終了となりました。ケージから出てきてくれるまでに回数でいうとおそらく10回ほどご相談を重ねたと思います。ようやくケージから出てきてくれた時は、飼い主さんと一緒に心の中で大喜びしました。実際に声に出すとびっくりしてしまうので(笑)
これと並行してご自宅では、まずは体重計にのるトレーニングから始めていただきました。(理由はのちほど)最初は、お察しの通り体重計の存在に慣れてもらうところからのスタートでした。
そして、こちら↓が数か月経過したオカメインコさんの様子です。
この画像を見せてもらった時、別鳥かと思うくらい驚いてしまいました。そして、やればできるんだということを飼い主さんに気付きを与えてくれました。
この結果、以前はとにかくちょっとしたことでパニックを起こしていたのが、パニックを起こす回数が各段に減っていったそうです。
知らない人(=トレーナーのこと)と出会う機会と、ご自宅での取り組みのおかげで、ストレス耐性がアップしたと言えるのではないかなと思います。
つまり、飼い主さんをはじめ鳥さんを取り巻く環境が、鳥さんを変えたと言えるのではないでしょうか。
おそらく、怖がり屋さんだからと怖がらせないように気を使いながらの生活をしていたら、オカメインコさんの可能性は引き出せなかったのではないかと思います。
一方で、全ての怖がり屋さんの鳥さんが克服できるとは限らないというお話もあります。獣医師の先生にご意見をおうかがいした時に、臆病な鳥さんの中で、例えば病院で保定されると過呼吸になってしまうくらい緊張がマックス状態の鳥さんの場合、もしかしたらトレーニングでどうこうできるレベルではないかもしれないと教えていただいたことがあります。脳の神経的な影響でとのことでした。実際に、スーザン・フリードマン教授の記事「Early Socialization」によると、「神経科学や関連する研究によって、環境、脳の仕組み、行動が影響しあっている(のではないか)」という神経科学や関連の研究がなされているそうです。トレーニングに取り組んだとしても、飼い主さんが思い描くレベルまで到達できない場合もあるかもしれません。それでも、できる範囲でアプローチすることでほんの少しでも鳥さんにはいい方向に変化が現れる可能性はゼロではないと考えています。(※もちろん無理は禁物です!)
そのほかにも、飼い主さんの取り組みのおかげで、レッテルや殻を打ち破ってきた鳥さんたちは数多くいます。
①怖がるからとケージの敷き紙を変えられないというヨウムの飼い主さん。
⇒大丈夫です!ちゃんと変えられるようになりました。新品の止まり木にもとまれるようになりました。
②チャイムの音に100%パニックを起こすオカメインコさん。
⇒見事、克服してくれました!突然のピンポ~ンは、人でも驚きますよね。
③キャリーを見るだけで、過呼吸になるセキセイインコさん。
⇒まぁ、キャリーに入ったことで過去にイヤな経験が…。少しずつのアプローチで、自分でキャリーに入れるようになりました。それでも病院はキライなままですが…。
④臆病だから、絶対に!おもちゃでは遊ばないというコザクラインコさん。
⇒ある意味これは、飼い主さんから私に対する挑戦状でした(笑) 飼い主さんの取り組みのおかげで、めちゃくちゃおもちゃで遊ぶようになってくれました。毛引きも改善。
などなど、これら事例の飼い主さんたちに共通していたのは、「どうせ何をやってもダメなんじゃないかな…」というところからのスタートでしたが、一縷の望みをかけてご相談をご利用いただいたことで鳥さんの可能性を広げることができました。これら全て、飼い主さんたちがあきらめなかったことと、適切なアプローチの成果だと言えます。
ストレス耐性を上げていくには
それでは、ストレス耐性を上げていくには具体的にどのようにしたらいいのでしょうか。
それは、ずばり『①家族以外の人とのふれあい』と『②成功体験の積み重ね』だと考えています。
①家族以外の人とのふれあい
家族以外の人とのふれいあいは、「社会化」という言葉で表されるかと思います。社会化には、相手が人に限らず、鳥さんに対しても使う言葉です。冒頭でご紹介した臆病なオカメインコさんも、家族以外の知らない人(=トレーナー)と会うことは社会化の第一歩だったのではないかなと思っています。
社交的な鳥さんや度胸満点の鳥さんは、きっと新しい環境に対しても、最初は少し戸惑うかもしれませんが、すぐに順応してくれると思います。こういったタイプの鳥さんは鳥さんで、また違う困った状態になる場合があります。それは、(全ての鳥さんではありませんが)お山の大将状態になりやすいという点です。この場合も「①家族以外の人とふれあい」、つまり知らない環境に身を置いたり知らない人と出会うことで、お山の大将状態を一時的に和らげることができると考えています。(1か月もかからないくらいでまた元通りに戻る場合がほとんどのようですが…。)
現在もコロナが収束したとは言えない状態なので、なかなか他の人に鳥さんを合わせる機会を作るのは難しいかもしれません。個人的に感じたのは、オンラインご相談の時に、いつもの生活空間にパソコンなどの画面上に知らない人が登場したり、聞きなれない声が聞こえることでも社会化ができるのではないかなと感じた出来事がありました。例えば、鳥さんの普段の動きや様子とは違うという言葉をいただいたり、オンライン相談後はしばらく聞き分けがいいとのことです。これは少なからず、外部からのいい刺激を受けたと言えるのではないかと思われます。外部との接触がゼロの鳥さんに比べると、オンライン上で家族以外の人と会ったり声を聞く機会が繰り返される環境にいる鳥さんの方が、ストレス耐性がアップし、鳥さんに余裕が生まれるのではないかと思っています。
ここで、めちゃくちゃかわいいエピソードを一つ。セキセイインコさんのオンラインご相談で、セキセイインコさんが画面に現れたり消えたりするという動作を繰り返していたので、飼い主さんに「セキセイさん、画面から消えた時に何をしているんですか?」と尋ねたら、どうやら画面の後ろに私がいるんじゃないかと思って見に行ってるんじゃないでしょうかと言われ、なんてかわいいんだ!と悶絶してしまいました。きっとうすっぺらい人間だな~と思われたのではないでしょうか。
②成功体験の積み重ね
冒頭のオカメインコさんで言えば、ご自宅でトライしていただいた体重測定がまさにそうです。単なる体重測定のトレーニングだけでなく、小さな「できた!」の成功体験を積み重ねることで、鳥さんにとって自信につながるのではないかなと感じています。体重測定のトレーニングは、一見ストレス耐性を上げることとは関係なさそうですが、臆病な鳥さんにとっては数々のハードルを乗り越えていくことになります。
①体重計(キッチンスケール)自体に慣れる。⇒「お?怖いものじゃなさそうだな」
②体重計に近づく。ご褒美がもらえるぞ! ⇒ 「ヤッタ!」
③体重計にのるとご褒美がもらえた! ⇒ 「ヤッタ!」
これだけでもたくさんの「できた!」の成功体験が!トレーニングを行う時は、飼い主さんの方もぜひ小さな「できた!」を一緒に喜びながら取り組んでいただけたらいいなと思います。
一事が万事なところもあるので、一つできるようになるとあんなに臆病だったのにという鳥さんがいろいろなことをクリアしていけるようになるので、まさに鳥さんに自信がついたのではないかなと思っています。「え?前からできてましたけど何か?」みたいな顔をしながら。
体重計にのれるようになる(体重測定ができるようになる)以外の簡単なトレーニングは、
●おいで
●おもちゃに慣れる
●新しいエサ入れやお皿でエサを食べられるようになる
など、小さな成功体験を積み上げていけることはたくさんあります。
ストレス耐性をキープするには
前回の記事でもご紹介いたしましたが、一度アップしたストレス耐性は、この先ずっとキープできるかというとそうではないのが残念な点です。以前はたくさんの人が行き交う場所にいることが多く、接客を担当していたくらいのテンジクバタンさんが、ご家庭に迎え入れられた後に、人見知りになったという状況はまさにそうだと言えます。
毎日やる必要はありませんが、定期的にオンラインでもいいので鳥さんを飼い主さん以外の人の存在と出会う機会を作っていけると変化が現れるかもしれません。
臆病な鳥さんと暮らしている飼い主さん、ぜひあきらめないでいただきたいなと思います!
最後に、臆病な鳥さんに対して、かなりの高確率で効果があった方法をご紹介いたします。
ケージが少し動くだけでも驚いてしまうような鳥さんもいるかと思います。ケージを掃除する時は、ケージを揺らさずに掃除できるかと言われるとなかなか難しいのではないでしょうか。どうしても振動が発生する場合、「動くよー、大丈夫よー」くらい少しばかり大げさでもいいので飼い主さんが連続で声を出しながら動く+振動が発生すると、鳥さんは飼い主さんの声の方に気が向いているので、「あれ?いつの間にか終わった!いつもは揺れて怖いのに」みたいな感じで意外と乗り越えられるケースが多いと感じています。ぜひ、鳥さんの様子を観察しながら、少しずつ少しずつ試していただけたらと思います。
こちら↓のオキナインコさんもいろいろなことを乗り越えてきました。ご家族の中で特定の人にしかステップアップしない・他の人は咬むというオキナインコさん。最初は手からご褒美を受け取ってくれないところからスタートして、何度も知らない人(=トレーナー)に会う内に咬まずにステップアップしてくれるようになりました。自咬改善にも繋がり、少し羽はいじっていますがよく頑張りました!適切な方法で継続することは大事ですね。