こんにちは、とり部 森岡です。
BBT鳥さん見守り隊のオンライン個別相談をご利用くださったヨウムさんのご紹介です。
◎鳥さん情報
- ヨウム
- 3歳♂
- 大好物:リンゴ
初回の鳥さんの様子
怖いものが多いということでしたが、初回のご相談時から知らない人の知らない声がモニター越しに聞こえても、得意の握手を披露してくれてご褒美のリンゴを食べてくれました。また、咬んでしまうこともあるということでしたが、飼い主さんがご褒美のリンゴを準備するためにキッチンに向かう後ろ姿を追おうとしていて、決して飼い主さんのことが嫌いだからで咬むのではないと感じました。
遠ざかったり近寄らなかったりすると、人側は『鳥さんが怖がっている』と感じることもあると思います。ですが、それが何かわからないので鳥さんにとって近寄るメリットがないという理由もあります。咬まれてしまうと、人側は「嫌われているのかな」と感じるかもしれません。ですが、どう振る舞ったらよいかわからないだけということもあります。
若く経験が少ない鳥さんの場合、お互いに快適に過ごすため人と暮らす上でのルールを教えてあげることが必要です。減らしたい行動にご褒美を与えないかわりに、新しい行動を教えて、その行動にはご褒美を与え、後のその行動の出現率を増やしていきます。飼い主さんと鳥さん、両方に負担の少ない方法で進めていくことにしました。
取り組み
新しい行動を教えるとき、鳥さん側が正解がわからない(ご褒美がもらえない)と、鳥さんによってはクチバシを使う(咬む)ことがあります。さらに、咬んで『わからない!』を伝えたとき、痛みや驚きにより飼い主さんから反射的にでた声や動きを鳥さんが面白い反応と捉えてしまうと、それを見たくて咬む行動を繰り返してしまうことがあります。人も反射までは制御することが難しいので、意図しない行動を増やしてしまわないように咬まれないことを目指しました。
このヨウムさんの場合、自分のいる位置へ飼い主さんの手が近づくと手に注目してしまい、咬む行動がでることがありました。
●すでにできる行動を応用してステップアップにつなげる
①スタンドへのステップアップ
手へのステップアップ練習と平行して、スタンドからスタンドへのステップアップ練習をしました。
【目標】
手に持った状態のスタンドへもステップアップできる
※こちらのヨウムさんは置かれた状態でなら、スタンドからスタンドへステップアップができました。
◎揺れても乗れる
揺れ少ない←•••→揺れ大きい
乗り移る側のスタンドを傾けてテーブルに一点を接地させた状態(★)で乗る→どこにも接地していない状態のスタンドに乗る→スタンドで移動
◎飼い主さんの手が視界に入っても咬まずに乗ることができる
手が遠い←•••→手が近い
スタンドの台座部分を持つ→台座+片手を柄に添えて持つ→添えた手を徐々に鳥さんに近づける
②テーブルからのステップアップ
テーブルに鳥さんがいる状態で、ご褒美のリンゴを鳥さん自ら取りに行く練習
鳥さんとご褒美を持つ手の間に飼い主さんの腕を置いてご褒美を取りに来てもらう
【目標】
ご褒美を取りに行ったら腕を踏んづけてた!案外平気だった!ご褒美ももらえた!を鳥さんに経験してもらう
ルール
◎ご褒美を提示した手は固定(そこがゴール)
一度ご褒美を提示したその位置は鳥さんとの約束の距離です。約束を守ることで鳥さんからの信用が得られます。逆に約束を破ると・・・
鳥さんが受け取りに来てくれないから、ご褒美を持った手を近づけた
待っていたらご褒美の方からやってくるからもう取りに行かない!
鳥さんがもう少しで腕に乗りそうだから、ご褒美を持った手を遠ざけた
せっかく取りに行ったのに、ご褒美がもらえないならもうやらない!
◎ご褒美を提示する高さ
飼い主さんの手に注目して咬んでしまわないように、ご褒美を提示する高さを鳥さんのくちばしの位置、またはくちばしの高さから約3㎝高いところに設定しました。
◎鳥さんの選択を尊重
ご褒美を受け取らなくても追いかけない、すぐに取りに来なくても10秒ほど鳥さんに考える時間をあたえました。考えること自体が鳥さんのよい思考の刺激になります。
◎鳥さんにわかりやすく
例えば「さっきの位置は遠すぎたね、ごめんね」でご褒美をあげてしまうと、何が正解か一生懸命考えている鳥さんは混乱してしまいます。ご褒美を取りに来たら渡す、取りに来なければ渡さない、を一貫しました。
◎ご褒美は魅力あるものを
ご褒美の魅力が重要です。お腹の減り具合で魅力も増減します。もちろん満腹なら動機は激減しますが、逆に減りすぎていても興奮して練習にならないことがあります。またおもちゃなど、食べもの以外がご褒美になることもあります。
幸いこのヨウムさんには大好きな食べものがあり、練習の強い味方となりました。
上記のルールを守ればあとはハードル(難易度)の調整です。ハードルは高すぎても逆に低すぎても目標を達成できません。
ハードル調整の失敗例
▲ご褒美の位置が鳥さんに近すぎて、腕を踏んづける前にご褒美を取られた
▲ご褒美の提示位置が鳥さんから遠すぎて、受け取りに来てくれなかった
失敗と書きましたが、鳥さんにとってはまったく失敗ではありません。ハードルが低すぎたら鳥さんにとっては『簡単にご褒美がもらえた!ラッキー!』、高すぎても『取りに行かない!』と鳥さん自らが行動を選択することができます。これが応用行動分析学に基づいたトレーニングが鳥さんにとって優しいと言われる理由の一つです。
ハードルは低い→高いへ・・・小さなステップの積み重ね
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これらの方法で、最終的に手へのステップアップを目指しました。
2回目のご相談では、①ヨウムさんは固定していないスタンドへ乗り移り移動することができていました。また、②飼い主さんの腕を何度か踏んづけてご褒美を受け取ってくれました。
飼い主さんから「爪が痛かったけど嬉しいです」というお言葉をいただき、同じように嬉しく思いました。
すでに目標へ近づいていたので、このまま継続していただくことにしました。
嬉しい出来事でついに!
練習を継続いただいている期間に、飼い主さん宅にご友人が訪問されました。そこで、たまたまバランスを崩したヨウムさんが豪快に飛び、部屋を旋回して着地、それを見たご友人が盛大な拍手とともに褒め称えたそうです。その日から飛ぶのが好きになったとご報告をいただきました。
そしてなんと数日後!ご褒美のリンゴを準備する飼い主さんの後ろ姿に向かって飛んで行き、飼い主さんの腕に見事に着地するヨウムさんの動画を送っていただきました。
たまたまご友人が訪問されているときに、たまたま飛んで、たまたまご友人のリアクションがヨウムさんにとって強烈に印象に残るものだったのかもしれません。ですが、これまでの取り組みも決して無駄ではなく、鳥さんとのすべての関わりが影響していると思います。
その証拠に、どこへでも飛んで行けるようになった今、飛んで行きたい場所が飼い主さんの元だということは、これまでの取り組みがあってこその成果です。飛んで腕に止まることができるようになったことがヨウムさんの自信となり、これまでのトレーニングにもよい変化があるかもしれません。
『飼い主さんが一番のご褒美』を目の当たりにできた、とても素晴らしい経験をさせていただけたご相談となりました。
飼い主さん、ヨウムさん、あらためましてありがとうございました!