過去の結果が未来の行動を形作る
応用行動分析学(Applied Behavior Analysis : ABA)とは
環境を変えることによって、問題行動を解決するプロセスのことを言います。
行動変化と学習の科学的分析を、人や動物のよりよい暮らしに役立てるために応用すること、もしくは、応用するための技術を研究する学問のことです。行動変化の科学と技術は、イルカや犬などのトレーニング、子育て、カウンセリング、子どもの発達障害の分野においても欠くことのできないものとなっています。
人はついつい行動、あるいは動物の性格に焦点を当てがちですが、環境が存在しなければ、行動は存在することはなく、行動は常に環境からのフィードバックを受け、環境は行動の出現率の増減や維持、消去に影響を与えています。
望ましくない行動を望ましいものへと変化させ、それを維持するために、環境をどのようにコントロールすれば効果的*なのかを追求する分野です。
ABAは…
●科学です。長い年月をかけて研究者たちによって実験、検証されてきたものです。ほんの数回の結果で、何の証拠もなく、「効果がある!」と結論付けられているものではない。
●誰でも素早く学べる内容であり、一方的な強制ではなく、鳥さんに限らず動物と人が暮らしていくための行動の手助けとなる方法。
ご褒美トレーニング ~違う種だからこそ、伝え方にはコツがある~
ポジティブレインフォースメント:正の強化
ポジティブレインフォースメントとは、別名「ご褒美トレーニング」、さらには「賄賂トレーニング」と呼ばれています。行動と学習の科学に基づくトレーニング法です。
最も押しつけがましくなく、最も介入度が低い方法とされていて、近年ではイルカや犬のトレーニングにも用いられている方法です。
望ましい行動とご褒美(価値あるもの/こと)を関連付けて、望ましい行動の出現率を増やしていく方法です。反対に、望ましくない行動の場合は、ご褒美はなしとなり、学習者(=鳥さん)にとって価値がない結果が伴うことで、対象の行動を減らす、あるいは消去していきます。
ABAに基づく機能的評価(査定)
「事前の状況(先行事象)」、「行動」、「結果」の英語の頭文字を取って「ABC」と呼びます。行動と環境・事象の間にある機能的な関係性を特定するプロセスで、行動を分析する上での「最小の有意義なユニット」です。言い換えると、鳥さんのお顔に惑わされずに、その取り組みは適切か、適切でないかを正しく把握できるツールです。
●Distant antecedent(行動の直接的なきっかけとなる事象・刺激。)
バックグラウンドとも言われる。例:鳥種、性別、治療歴、睡眠サイクル、食餌、人の存在、日々のスケジュールなど。ただし、直接的に行動にきっかけを作るものではない。
●Immediate Antecedent
ある条件の元に個々が行うこと。観察可能な様子。
対象となる行動の直後に続く事象。未来の行動の出現率(上がったり、下がったり、維持、消去)に影響を与える。
●Behavior(行動)
ある条件の元に個々が行うこと。観察可能な様子。
●Consequense(結果)
対象となる行動の直後に続く事象。未来の行動の出現率(上がったり、下がったり、維持、消去)に影響を与える。
この機能的評価(査定)を用いることによって、観察スキルを向上させ、勘違いや思い違いを回避できます。
■過去の「結果(C)」は、未来の「行動(B)」の出現率を上げて、維持する。
■「結果(C)」が鳥さんにとって「価値があるもの/こと(=好きなこと)」と判断されれば「行動(B)」の出現率は上がる。
■反対に、「結果(C)」が鳥さんにとって「価値がないもの/こと(=キライなこと)」と判断されれば「行動(B)」の出現率は下がる、または消去される。
問題行動と言われる呼び鳴きや咬み付きは、鳥さんが日々の暮らしの中で獲得していった学習行動であると考えます。中には、「ご褒美をあげたつもりはない!」という場合もあるかもしれません。しかしながら、鳥さん目線で考えた「価値あるもの/こと」があったからこそ咬みつき呼び鳴きを学習し、人側に自覚がなければこれを改善できないでいると断言できます。
また、毛引き/自咬には様々な理由がありますが、「結果(C)」によって「行動(B)」が強化された学習行動の場合もあります。
例:飼い主さんの気を引くための毛引き自咬
問題行動と言われているものが学習行動であるというのなら、鳥さんは望ましい行動も学習できるはずです。知らず知らずとは言え問題行動を教えてしまった飼い主さんが、ABAの理論を理解して、正しく実践することによって、望ましい行動を教えることができると考えています。
望ましくない行動を望ましい行動に変えるためには「事前の状況(A)」と「結果(C)」を変えればよいとされています。
望ましい行動が現れるたびに報酬を与えます。これを「強化」といい、与えられる報酬は「鳥さんにとって価値があること」です。
反対に望ましくない行動が現れたときには「報酬なし」です。「無視/ノーリアクション/報酬なし」を徹底します。時に、人目線で考えてしまう「報酬」が、鳥さんにとっては異なる受け止め方をされてしまう場合があるので注意が必要です。
ABAの理論はいたってシンプルですし、ポジティブレインフォースメントトレーニングも、だれでも学ぶことができます。
・望ましい行動の時は、ご褒美(褒める) ⇒ 行動の出現率が上がる
・望ましくない行動の時は、ノーリアクション ⇒ 行動の出現率が下がる、または消去される
しかしながら、難しくしてしまっている原因があります。それは・・・
●鳥にはそれぞれ個性がある
●鳥を取り巻く環境も様々
●人目線になってしまいがち
●鳥さん目線と人目線に違いがある
以上の4点です。
とてもシンプルなのですが、「ご褒美」について人目線になってしまい、人は「ご褒美」のつもりでも、鳥さんにとっては「ご褒美」になっていなかったり、または逆のパターンもあります。このため、ABAでは、「ご褒美(Treat)」という表現はあまり使わない方がいいと言われています。
*褒めているつもりでも、ご褒美になっていないパターン
・拍手:手が大きく動いて音もなるのが、怖いと思う鳥さんもいる。
・声援:声のかけ過ぎで、指示が分からない。
・手招き:手が目の前で動くのが怖い!ヤダ!と思う鳥さんもいる。
*叱っているつもりでも、伝わらないパターン
・睨む:飼い主さんにたくさん見つめられた♪
・大声を出す:一瞬びっくり!でも声を掛けてもらえた♪
・ケージに戻す:そうか!咬めばケージに戻してもらえるのか!
【注意!】ポジティブレインフォースメントに、「叱る」や「バツ」という言葉はありません。
鳥さんにしつけは必要? ~まず変わらなければならないのは人~
「トレーニング」という言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。しつけや罰を与える、「鳥にトレーニングなんて!」とマイナスイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。R+で用いる「トレーニング」は、応用行動分析学に基づくもので、決して罰を与えるものではないということをご理解ください。
鳥さんは元々人間社会のルールを知りません。しかし、人と暮らしていくためには、たくさんのルールがあり、学んでもらう必要があります。ルールを教えない、あるいは適切な方法で教えていないにもかかわらず、叱ったり、「悪い子!」と鳥さんに一方的に責任を押し付けるのはフェアではありません。一つ一つ、鳥さんにとって分かりやすく教えていく、これがトレーニングです。相手(=鳥さん)に伝わっていなければ、教えたことにもなりません。
ここで使う「トレーニング」という言葉には、一方的に人の都合や理想を押し付けるものではありません。
「トレーニング」の考えと必要性
●野生下の暮らしはヒントにはできても、飼養下の暮らしに100%適用することは難しい。コンパニオンアニマル(伴侶動物)としての必要な行動を教えることがトレーニングである。これは、鳥の精神的・肉体的快適さ、健康、幸福を約束するための行動でもある。
●コミュニケーションの一つの手段であり、いわば異なる言語を使う鳥と人との意思疎通を図る通訳の役割を果たすものである。
●応用行動分析学に基づく、最もポジティブで、最も介入度が少ないポジティブレインフォースメント(Positive Reinforcement:正の強化)を使用し、鳥らしさを尊重する方法。
●犬のように主従関係に基づくものではなく、鳥と人は対等であるという考えに基づく。人の都合や理想を押し付けるのではなく、鳥さんを自身の思い通りするためのものではない。
●トレーニングには、接し方、観察の仕方、環境の整え方、望ましい行動・望ましくない行動の伝え方などの方法が含まれている。
鳥さんとの暮らしは、鳥さんの行動の動機付けを理解し、習性を尊重し、人と一緒に暮らしていくためのルールを鳥さんにとって分かりやすく伝えていくことで、より良い関係性を築くことができると考えています。愛情だけではどうすることもできない場面に遭遇することもあるかもしれません。何のアプローチもしないまま、ただただ時間が解決してくれることを待ち望んだとしても期待はできないでしょう。しかし、「トレーニング」の正しい知識は、人と鳥さんに負担をかけず、短期間で解決してくれるはずです。
鳥らしさを尊重し、鳥生を豊かにしていくための手助け、それがトレーニングです。
人にとってはトレーニングかもしれませんが、鳥さんにとっては飼い主さんと一緒の時間を共有できる頭と体を使うコミュニケーションでありゲームであり遊びなのです。飼い主さんが正しい知識と技術を持てば、鳥さんを一生楽しませることができます。
「放鳥時間が短いのかしら?」と思う飼い主さんもいらっしゃるようですが、放鳥時間は長さよりも質です。2時間のダラダラ放鳥タイムよりも、30分のトレーニングを含んだ放鳥タイムの方が鳥さんはきっと満足してくれます。
飼い主さんに心身の健康と安全を守られ、望ましい行動を適切な方法で教えてもらい、フォージングなどの刺激で満たされた生活を送っている鳥さんは毎日忙しく、望ましくない行動をする必要も暇もないでしょう。
鳥さんは人を癒すためだけに生まれてきたのではありません。
もちろん癒しの効果は抜群だと思います。ただし、鳥さんに癒してもらっているのであれば、鳥さん自身を癒してあげる立場であり、楽しませてあげる立場となり、鳥さんから見たら「いい飼い主♪」になれたら、より素敵な関係性を築くことができるのではないでしょうか。
「確固たるルール」と「基本的信条」
応用行動分析学を鳥さんとの暮らしに用いる上で、2つの確固たるルールと3つの基本的信条があります。
[確固たるルール]
1.鳥の行動を変えるためには、まずは飼い主自身が変わらなければならない。
2.鳥らしさを尊重した解決策を用いる。
[基本的信条]
1.行動には機能が伴う。
2.鳥の未来の行動は、過去の結果と関わり合っている。
3.思いやりのある事前のアレンジメントは、望ましい行動を作り、持続させることができる。
(Susan Friedman教授より)